20160221_hd_cancerGastroenterologyGullet01.jpg

食道について

食道は、喉(咽頭)と胃の間をつなぐ長さ25cm、太さ2〜3cm、厚さ4mmほどの管状の臓器です。食道は体の中心部にあり、胸の上部では気管と背骨の間にあり、下部では心臓、大動脈と肺に囲まれています。
食道は、口から食べた食物を胃に送る働きをしています。食物を飲み込むと、重力で下に流れるとともに、筋肉でできた食道の壁が動いて食べ物を胃に送り込みます。食道の出口は、胃内の食物の逆流を防止する構造になっています。これらは食道を支配する神経と、食道の筋肉の連係により働くしくみとなっています。食道には消化機能はなく、食物の通り道にすぎません。

spacer.png

食道がんについて

①食道がんの疫学

日本おける食道がんの現況は,日本食道学会の全国調査(2002 年)によると,性別では男女比で約6:1 と男性に多く,年齢は60 ~70 代に好発し,全体の年代の約68%を占めるとされています。
また厚生労働省の人工動態調査によると2008 年の食道がん死亡者数は11746 人( 人口10 万人あたり9.3 人)で,これは全悪性新生物(がん)の死亡者数の3.4%に相当します。
日本人の食道がんは、約半数が胸の中の食道中央付近から発生し、次いで1/4が食道の下部に発生します。食道がんは、主に食道の内面をおおっている粘膜の表面にある上皮から発生し、日本では食道がんの90%以上が扁平上皮がんです。

②食道がんのリスク因子

食道がんについては、喫煙と飲酒が確立したリスク要因とされています。特に日本人に多い扁平上皮がんでは、喫煙と飲酒が相乗的に作用して、リスクが高くなることも指摘されています。また、熱い飲食物がリスクを上昇させるという研究結果も多く報告されています。近年、欧米で急増している腺がんでは、食べ物や胃液などが胃から食道に逆流する「胃・食道逆流症」に加え、肥満により確実にリスクが高くなるとされています。

spacer.png

食道がんの症状

食道がんは、初期には自覚症状がないことが多く、健康診断や人間ドックのときに内視鏡などで発見されることが20%近くあります。
しかし進行してくると、食べ物を飲み込んだときに胸の奥がしみるような感じ、食物がつかえるような感覚、体重減少、胸痛・背部痛、咳、声のかすれなどの症状が現れます。このような症状でお困りの場合は、食道がんの可能性も考えて一度食道の内視鏡やレントゲン検査をすることをお勧めします。

spacer.png

食道がんの診断のための検査

①内視鏡検査

内視鏡検査は、病変を直接観察できる最も重要な検査です。通常の観察に加えて色素内視鏡検査を行います。正常な粘膜上皮細胞がヨウ素液(一般にルゴールといいます)に茶色く染まるのに対し、がんなどの異常のある部分は染まらない、でんぷん反応を利用した方法です。また超音波内視鏡を用い、がんの深達度(癌の深さ)、リンパ節転移状況を検索することもあります。

②病理検査

内視鏡検査で採取した組織にがん細胞があるのか、あるとすればどのような種類のがん細胞かなどについて顕微鏡を使って調べることを、病理検査といいます。

③食道造影

進行食道がんの部位診断に有用です。ただし、食道の早期がんを食道造影のみで診断するのは、非常に困難といえます。内視鏡検査と併用することをお勧めします。

④CT、MRI

進行食道がんの他臓器(気管、大動脈など)への浸潤の有無、リンパ節転移、肝臓、肺への転移をしらべます。

⑤骨シンチ

ラジオアイソトープを注射し、癌の骨への転移を調べます。

⑥PET検査

PET検査(陽電子放射断層撮影検査)は、全身の悪性腫瘍細胞を検出する検査です。悪性腫瘍細胞は正常細胞よりも活発に増殖し、そのエネルギーとしてブドウ糖を多く取り込みますが、その性質を利用して悪性腫瘍細胞を検出します。ほかの検査で転移・再発の診断ができない場合に行うことがあります。

spacer.png

食道がんの病期(ステージ)

病期とは、がんの進行の程度を示す言葉で、ステージともいいます。病期は、がんの深さ(T因子)、リンパ節転移の程度(N因子)、別の臓器への転移があるかどうか(M因子)で決まります。これをTNM分類といい、この3つの要素の組み合わせによって病期が決まります。病期には、ローマ数字が使われ、0期、I期、II期、III期、IV期に分類されています。

表1 食道がんのTNM分類

T因子*
(がんの深さ)
T1a がんが粘膜内にとどまる
T1b がんが粘膜下層にとどまる
T2 がんが固有筋層にとどまる
T3 がんが食道外膜に広がっている
T4 がんが食道周囲の組織まで広がっている
N因子*
(リンパ節転移)
N0 リンパ節転移がない
N1 第1群リンパ節のみに転移がある
N2 第2群リンパ節まで転移がある
N3 第3群リンパ節まで転移がある
N4 第4群リンパ節まで転移がある
M因子
(遠隔転移)
M0 遠隔転移がない
M1 遠隔転移がある

*がんの深さ:食道壁は、内腔面より(食事が通る面)より、粘膜層(T1a)→粘膜下層(T1b)→固有筋層(T2)→外膜(T3)とつながります。他臓器(大動脈、気管等)に浸潤するとT4になります。
*リンパ節転移:1〜4群リンパ節をがんのある場所からどのくらい離れているかによって分類し、近いものから1群、2群、3群、4群と呼びます。

表2 食道がんの病期

食道がんの病期

日本食道学会編「臨床・病理 食道癌取扱い規約(第10版)」(金原出版)より一部改変

spacer.png

食道がんの治療

食道がんの治療には、内視鏡治療、外科手術、放射線治療、化学療法(抗がん剤)の治療があります。治療は主に病期により決定され、ある程度進行したがんでは外科手術、放射線治療、化学療法を組み合わせた集学的治療が行われます。同じ病期でも、病気の進行具合、全身状態、心臓・肺の状態などによって治療が異なる場合があります。

図3 食道がんの臨床病期と治療

食道がんの臨床病期と治療
日本食道学会編「食道癌診断・治療ガイドライン 2012年4月版」(金原出版)より一部改変

①内視鏡治療

内視鏡治療は、内視鏡を使って食道の内側からがんを切除します。切除の方法には、内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)があります。
食道壁の粘膜下層までにとどまる「表在型」のがんのうち、リンパ節転移のない食道がんを早期食道がんと定義し、治療の適応が検討されます。通常は1週間程度の入院が必要となります。

②外科手術

食道癌が粘膜をこえて深くもぐり込んでいる場合には、原則的に手術が必要になります。手術は、食道の病巣の完全切除と癌が転移しているかもしれないリンパ節を十分な範囲取り去ることから成ります。食道を切除した後には、胃や腸を使って食物の通る新しい通路をつくる再建手術を行います。食道は頸部、胸部、腹部にわたっていて、それぞれの部位によりがんの進行の状況が異なっているので、がんの発生部位によって選択される手術術式が異なります。詳しくは消化器外科のページをご参照ください。

③放射線治療

放射線治療は手術と同様に限られた範囲のみを治療できる局所療法で、高エネルギーのX線などの放射線をあててがん細胞を傷つけ小さくします。放射線治療は、がんを治すことを目的にした治療(根治治療)と、がんによる痛みや出血を抑えたり、食べ物の通り道を確保するために行う治療(緩和治療)があります。根治治療では1日1回、週5日、6週間程度、緩和治療では3~4週間程度で治療を行うことが多いです。

④化学療法

化学療法とは、がん細胞を傷つけ縮小させる効果のある薬(抗がん剤)を投与し、治療を行う方法です。抗がん剤は血液の流れに乗って全身に行き渡るため、手術では切り取れないところや放射線をあてられないところにも、効果を期待することができます。多くは別の臓器にがんが転移しているときに行われる治療ですが、単独で行われる場合と、放射線治療や手術との併用で行われる場合とがあります。
現在の食道がんに対する標準的な化学療法は、フルオロウラシルとシスプラチンという抗がん剤の併用療法です。シスプラチンは治療1日目に投与、フルオロウラシルは4日間ないしは5日間かけて少量ずつ持続的に点滴投与します。効果がない場合は、ほかの薬剤への変更や化学療法の中断などを患者さんの身体状況に合わせて判断します。
抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を及ぼすので、副作用が生じます。その強さや種類には大きな個人差がありますが、主には食欲低下、吐き気、口内炎、下痢、倦怠感、白血球減少、血小板減少、貧血、腎機能障害、アレルギーなどがあります。ただし最近は吐き気止めが改良され、そのほかの副作用の対処方法も確立されてきていますので、一昔前よりは治療による負担が軽減されてきています。

⑤集学的治療

がんの種類や進行度に応じて、手術治療、放射線治療、化学療法などのさまざまな治療法を組み合わせることを集学的治療といいます。手術前や手術後に化学療法をおこなったり、放射線と化学療法を組み合わせることで、治療効果の向上を期待します。特に進行がんではどれか一つの治療方法でというよりも、集学的治療をすることが多く、病気の進行具合や全身状態に合わせて治療方法を検討します。

spacer.png

おわりに

食道は、気管や心臓、大動脈といった重要臓器と近い位置関係にあること、また内腔(太さ)が胃や大腸よりも細いといった解剖学的特徴があるため、がんが発生した場合に様々な症状や治療上の問題が生じてくることがあります。
わたしたちはがんを発症してしまった患者様に対して、一人一人にあった治療を考え、できる限りベストな治療を提供できるよう心がけております。