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はじめに

肺にできる悪性腫瘍(悪性新生物)の大部分は肺がんであり、近年、患者さんの数が増加しています。2013 年の我が国の人口動態統計によると、1 年間で死亡したのは約126万人で、第1 位が悪性新生物(その大部分は「がん」)による死亡(約36 万人)、第2 位は心疾患(約19 万人)、第3 位は肺炎(約12 万人)、第4 位は脳血管疾患(約11 万人)でした。がんの部位別では、男性のがんによる死亡21 万7 千人のうち肺がんが最も多く、次いで胃がん、大腸がんと続き、女性はがんによる死亡14 万8 千人のうち大腸がんが最も多く、次いで肺がん、胃がんでした。がん全体でみると、肺がんが最も患者数が多く、2013年には約7 万3 千人が肺がんで亡くなっています。
高齢化の進行により、がんで亡くなる方が増加しており、生涯のうちに約2 人に1 人ががんにかかり、約3 人に1人ががんで亡くなると推計されています。医学の進歩により、克服されたがんも中にはありますが、依然としてがんは国民の生命と健康にとって重大な問題です。

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肺の機能と肺がん

Fig. 1 肺の模式図
Fig. 1 肺の模式図

肺は主に呼吸をするための器官で、吸い込んだ空気の中の酸素を体内に取り込み、体内から二酸化炭素を吐き出す役割をしています。吸い込んだ空気は気管を通り、左右の肺に分かれた後でさらに気管支に枝分かれをし、最後には酸素と二酸化炭素の交換を行う肺胞という小さな部屋に辿り着きます。肺は空気を含んだ2 ~ 7 億個の肺胞が集まっており、やわらかいスポンジのような構造をしています。肺胞のまわりには毛細血管が分布し、二酸化炭素と酸素のガス交換を行なっています。

肺がんは、肺の気管、気管支、肺胞の一部の細胞が何らかの原因でがん化したものです。進行するにつれてまわりの組織を破壊しながら増殖し、血液やリンパの流れにのって拡がっていきます。ここで注意していただきたいことは、もともと他の臓器にできたがんが肺に転移している場合には肺がんとはいわず、このような場合には「転移性肺腫瘍」と呼びます。明確に区別するために、もともと肺にできたがんを「原発性肺がん」といいます。たとえば乳がんが肺に転移したような場合、肺に病変があってもこれはもともと乳がんの細胞なので乳がんに対して有効な治療薬を選択して治療を行います。肺に病変があるからといって、肺がんの治療をするわけではありません。なお、肺がんが肺内に転移した場合には、「肺がんの肺内転移」あるいは「転移性肺がん」と呼びます。

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肺がんの患者数

岡山医療センターにおける肺の悪性腫瘍(主に肺がん)の新規の患者数はここ数年は年間150人ぐらいです。

Fig. 2 岡山医療センターの院内がん登録で肺の悪性腫瘍として登録された患者数の年次推移
Fig. 2 岡山医療センターの院内がん登録で肺の悪性腫瘍として登録された患者数の年次推移

年齢分布でみますと、やはり75 歳~ 85 歳のご高齢の方が多いようです。

Fig. 3 岡山医療センターにおける肺の悪性腫瘍(2008年~2013年の集計)-年齢別分布
Fig. 3 岡山医療センターにおける肺の悪性腫瘍(2008年~2013年の集計)-年齢別分布

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肺がんと遺伝子変異

ヒトの身体はたくさんの「細胞」で構成されています。正常な細胞は、必要なときに増殖し、不要なときには増殖しないという一定のルールに従うことで増えすぎないように「遺伝子」によりコントロールされています。しかし、この仕組みをコントロールしている遺伝子に異常が起こると(遺伝子変異)、細胞が限りなく増殖するようになってしまうことがあります。こうして限りなく増殖する性質をもった細胞を「がん細胞」といい、「がん細胞」が集まったものを「がん」といいます。
肺がんは、肺の細胞の中にある遺伝子に傷がつく(変異する)ことで生じます。傷をつける原因にはさまざまなものがありますが、代表的なものに、喫煙や石綿(アスベスト)などの粉塵曝露が知られています。
このように、がんは遺伝子の異常によって起こりますが、生まれつき遺伝子に傷があってがんになる人はごくまれであり、日常生活のなかで徐々に遺伝子が傷つき、それが蓄積することによって発生することが多いと考えられています。ただし、家族にがんが多発する場合には、遺伝子の傷を修復しにくい体質が遺伝している可能性があります。また、家族は似たような環境で暮らし、同じような生活習慣を持っていることが多いため、それががんの誘因になっていることもあります。

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肺がんの症状

咳、痰[たん]、血痰(血が混ざった痰)、呼吸困難、声がすれ(嗄声[させい])などが主な症状ですが、初期には無症状のことも多く、健診のX線写真で偶然発見されることもまれではありません。ときに転移病巣の症状、例えば脳転移による頭痛、骨転移による腰痛などの骨の痛みなどが最初に起こってくる症状である場合もあります。また、胸痛があらわれることもありますが、これは大抵の場合、肺がんが胸壁を侵したり、胸水が貯まったり(がん性胸膜炎)するためです。その他、肩こり、肩痛、肩から上腕にかけての痛みがおこることもあります(パンコースト腫瘍)。他の臓器のがんと同様に肺がんでも、疲れやすかったり、食欲低下、体重減少があらわれることもあります。

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肺がんの診断のための検査

肺がんが疑われた場合、身体の中からがんと推定される部分の組織や細胞を何らかの方法で採取して、顕微鏡でみて診断を確定します。腫瘍マーカーが異常高値であることや、PET-CT等の画像診断のみでは肺がんが強く疑われても、肺がんの診断が確定したとはいえません。多くの場合、気管支内視鏡(気管支鏡)検査により、がんと推定される部分の組織や細胞を採取して診断を確定します。胸水が貯まっている場合には、胸水を少し抜いて胸水中のがん細胞を検出することで肺がんと診断することもあります。また体表面に近い病巣がある場合には、直接病変部位に針を刺して(針生検)診断することもあります。

Fig. 4 肺がん診断の流れ(呼吸器科)
Fig. 4 肺がん診断の流れ(呼吸器科)

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画像診断の進歩

多列検出器CT(MDCT)と呼ばれる高性能CTスキャンによる撮像技術の発達により、0.5mm厚といった非常に薄い断面(スライス)での撮像が日常的におこなわれており、画像の枚数も大幅に増加(1,000スライス以上の場合も多い)したため、現在では多くの施設でCT画像等をフィルムではなく、液晶モニター上で観察するようになっています。
このような医療用画像管理システムをPACSと呼びます。岡山医療センターでもこのPACSを導入しており、X線、CT、MRIなどほとんどの画像は、電子カルテと連携しており、院内のどの電子カルテ端末からでも参照できるようになっています。診断用のMDCTに関しては、320列のMDCT(東芝メディカル社製Aquilion ONE)と64列のMDCT(東芝メディカル社製Aquilion 64)の2台がフル稼働しています。
この領域の進歩は近年著しく、コンピュータの演算スピードの向上も相まって、CT画像を3次元的に捉え、適切な陰影付け・遠近感を施し、人間が直感的に把握できる3次元グラフィックスとして表示できるようになりました。さらに、3次元画像の視点を気管や気管支内に置き、これら臓器の内面を立体的に表示する仮想気管支内視鏡(バーチャル気管支鏡)も日常的に利用できるようになっています。肺がんを診断するために使われる気管支内視鏡検査の手技には熟練を要しますが、あらかじめ肺がんの占拠部位につながっている気管支の枝を仮想気管支内視鏡により同定しておくことで、診断率の向上、検査時間の短縮がはかられています。呼吸器内科では2014年からは富士フイルム社製ボリュームアナライザーSYNAPSE VINCENTというソフトウェアにより、このような3次元解析をおこなっています。

Fig. 5 肺がんが見える-仮想気管支内視鏡
Fig. 5 肺がんが見える-仮想気管支内視鏡

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肺がんの分類

検査や手術で採取したがんの細胞や組織を顕微鏡で調べると、がん細胞やその集団の形に違いがあり、いくつかの種類に分類することができます。これを"組織型"と呼びます。肺がんの組織型は、大きく「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」に分けられます。非小細胞肺がんはさらに「腺がん」「扁平上皮がん」「大細胞がん」などに分けられます。一般的には腺がんが肺がん全体の約60%を占め、扁平上皮がんがこれに次ぎます。小細胞がんは肺がんの約15~20%を占める進行の速いタイプです。大細胞がんは比較的頻度の低い組織型です。
肺がんは気管支内視鏡検査により、がんと推定される部分の組織や細胞を採取して診断が確定されることが多く、岡山医療センターでは実際に気管支内視鏡検査をおこなっている最中に現場で、採取した細胞中にがん細胞が本当にいるかどうかを顕微鏡で見て確認をしています。これを迅速細胞診といいます。迅速細胞診で、がん細胞が採取できているかどうかの確認をしない場合には、がん細胞のチェックは数日後となり、運悪くがん細胞が採取できていなかった場合には、後日、気管支内視鏡検査をもう一度おこなうことになりますので患者さんの負担は甚大です。

Fig. 6 岡山医療センターにおける肺がん(2008~2013年集計)の各組織型の頻度
Fig. 6 岡山医療センターにおける肺がん(2008~2013年集計)の各組織型の頻度

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遺伝子変異の検査

肺がんでは、X線写真などで肺がんが疑われた場合に、主として気管支内視鏡を使ってがんとおぼしき組織や細胞を採取して、そのなかに本当にがんがあるかどうかを調べます。肺がんと診断が確定した場合には、診断のときに使った「組織」や「細胞」を用いてEGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子があるかどうかを検査します。
「EGFR(上皮増殖因子受容体)」とは、がん細胞が増殖するためのスイッチのような役割を果たしているタンパク質のことで、がん細胞の表面にたくさん存在しています。このEGFRを構成する遺伝子の一部(チロシンキナーゼ部位)に変異があると、がん細胞を増殖させるスイッチが常にオンとなっているような状態となり、がん細胞は限りなく増殖してしまいます。EGFR遺伝子変異はおおよそ男性の肺がんの10%、女性の肺がんの40%に認められ、腺がんに頻度が高いといわれています。特に、非喫煙者の女性の腺がんでは60%以上の頻度でEGFR遺伝子変異が検出されるといわれています。
「ALK融合遺伝子」とは、なんらかの原因により「ALK遺伝子」とほかの遺伝子が融合することでできる特殊な遺伝子のことです。「ALK融合遺伝子」があると、この遺伝子からできるタンパク質(ALK融合タンパク)の作用により、やはりがん細胞を増殖させるスイッチが常にオンとなり、がん細胞が限りなく増殖してしまいます。ALK融合遺伝子は、肺がん(非小細胞肺がん)の患者さんの約2~5%に認められ、非小細胞肺がんのなかでも腺がんにおける頻度は4~5%といわれています。

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肺がんの病期(ステージ)

肺がんと診断されたら、そのがんがどのくらいの大きさなのか、病巣近くのリンパ節に拡がっていないか、他の臓器に転移していないかどうか、さらに詳しく検査を行い、がんの進行度合い(病期、ステージ)を決めます。病期の評価には国際的には、国際対がん連合(UICC)の定めるTNM分類と呼ばれる分類法を用います。これは、がんの大きさと浸潤(T因子)、リンパ節転移(N因子)、遠隔転移(M因子)の3つの因子について評価し、これらを総合的に組み合わせて病期を決定する方法です。国際対がん連合(UICC)の分類法は定期的に改訂が行われており、院内がん登録では2011年までは第6版で登録、2012年以降は第7版に準拠して登録をおこなっています。第6版と第7版では病期に異同を生じることも多く、第6版による病期と第7版による病期とを総括してしまうことには問題があるため、病期に関しては2008年~2011年までと2011年以降とを区別して表示してあります。

肺がんのTNM分類(UICCの第7版)

病期は0 期、I 期(IA、IB)、II 期(IIA、IIB)、III 期(IIIA、IIIB)、IV 期に分類されます。

T因子(T:原発腫瘍)

がんの大きさと浸潤(がんが周囲の臓器にくい込むこと)の状態によって、大まかにはT1~T4の4段階に分類します。

T1a 腫瘍の最大径が2cm以下
T1b 腫瘍の最大径が2cmを超えて3cm以下
T2a 腫瘍の最大径が3cmを超えて5cm以下、あるいは3cm以下で胸膜に浸潤がある
T2b 腫瘍の最大径が5cmを超えて7cm以下
T3 腫瘍の最大径が7cmを超え、胸壁、横隔膜、胸膜、心嚢(心臓を包む膜)などに浸潤がある、または主気管支への浸潤が気管分岐部から2cm未満
T4 がんのある肺と反対側の縦隔、肺門、同じ側あるいは反対側の前斜角筋、鎖骨上窩のリンパ節への転移がある
N因子(N:所属リンパ節)

がんの「リンパ節転移」を示します。リンパ節転移のない場合はN0、転移がある場合にはどこまで転移しているかによってN1~N3の3段階に分類します。

N0 所属リンパ節転移なし
N1 がんのある肺と同じ側の気管支周囲かつ/または同じ側の肺門、肺内のリンパ節への転移がある
N2 がんのある肺と同じ側の縦隔かつ/または気管分岐部のリンパ節への転移がある
N3 腫瘍の最大径が5cmを超えて7cm以下
T3 腫瘍の最大径が7cmを超え、胸壁、横隔膜、胸膜、心嚢(心臓を包む膜)などに浸潤がある、または主気管支への浸潤が気管分岐部から2cm未満
T4 縦隔、心臓、大血管、気管、食道などへの浸潤がある
M因子(M:遠隔転移)

遠隔転移がない場合はM0、転移がある場合にはM1に分類します。

M0 遠隔転移なし
M1a がんのある肺と反対側の肺内の結節、胸膜の結節、悪性胸水(がんのある肺と同側、反対側)、悪性心嚢水がみられる
M1b 他の臓器への転移がある

病期は上記のT因子、N因子、M因子を組み合わせて決定します。どこにも転移がみられないものはI期(IA期、IB期)、限られたリンパ節のみに転移があるものはII期、がんのある肺と同じ側の縦隔に転移があるものはIIIA期、反対側の縦隔に転移があるものや食道や気管にがんの浸潤が認められるものはIIIB期、肝臓や骨などに転移したり、胸水が認められたりする場合はIV期となります。数字が大きいほどがんが進行していることを示します。

一般的に非小細胞肺がんの治療では、手術でがんを取り除くことができるI期、II期の患者さんは手術が基本となります。手術でがんを完全に取り除いても、IB期以上の病期の場合、再発防止のため術後に抗がん剤による化学療法をおこなうことが推奨されています。一方、小細胞肺がんの場合には、抗がん剤や放射線治療に対する反応がよく、増殖が速く転移しやすいため、抗がん剤による化学療法や放射線療法が基本となります。小細胞肺がんの場合には、病期分類として一般的なTNM分類以外に、治療方針の選択の面から限局型(LD)進展型(ED)とに分けて考えます。限局型は、腫瘍が一側胸郭内にとどまっている場合であり、一側胸郭を越えて腫瘍が進展している場合を進展型と定義します。肺以外のほかの臓器に転移があれば進展型です。小細胞肺がんは、使用する抗がん剤の種類や放射線療法のタイミングなど標準的な治療の方法が確立していますが、限局型進展型とでは標準的な治療の方法が異なっていますので、診断確定時にきちんと病期診断をおこなっておく必要があります。

Fig. 7 岡山医療センターにおける肺がんの臨床病期別頻度
Fig. 7 岡山医療センターにおける肺がんの臨床病期別頻度

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肺がんの治療方法

外科療法(手術)、放射線療法、化学療法(抗がん剤を用いた薬物療法)が肺がんの治療の3大柱です。この3種類の治療法を単独または組み合わせて治療を行います。肺がんの治療ガイドラインには組織型や病期等により推奨される治療法が記載されていますが、最終的にどのような治療法を選択するかは、肺がんの存在する部位、組織型、病期、基礎疾患、全身の臓器機能、体力、年齢等を総合的に判断して、患者さん本人の意思を尊重しながら、主治医と充分な相談をして決定しています。

Fig. 8 肺の悪性腫瘍(主に肺がん)のうち呼吸器科で内科的治療をおこなった患者数の年次推移(男女別)
Fig. 8 肺の悪性腫瘍(主に肺がん)のうち呼吸器科で内科的治療をおこなった患者数の年次推移(男女別)

岡山医療センターでは毎年、約150名の新規の肺がん患者さんが訪れますが、呼吸器科では約100名の肺がん患者さんに対して、内科的な治療(化学療法や放射線療法)をおこなっています。呼吸器外科とは同じフロア(10階B病棟)で診療をおこなっているため、肺がんに関してもシームレスで円滑なチーム医療が達成されています。

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肺がんの個別化治療

最近の研究により、それぞれのがんに特有な遺伝子変異が存在することがわかってきており、患者さん1人ひとりに合った治療を考える「個別化治療」が検討できる時代になってきました。日本肺癌学会によるガイドラインでも、遺伝子検査を行って遺伝子変異があるかどうかを調べた上で、患者さんに合った治療を選択することを推奨しています。
肺がんでは「EGFR遺伝子変異」、「ALK融合遺伝子」と呼ばれる遺伝子変異が有名で、現在、この2つの遺伝子変異をターゲットとした治療薬を用いることができるようになりました。最近の研究により、肺がんでは、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子以外にもさまざまな遺伝子変異が認められることがわかってきており、今後、これらの遺伝子変異をターゲットとした薬剤の開発も期待されています。このような治療薬は一般的に、分子標的治療薬と呼ばれています。
EGFR遺伝子変異が認められた場合は「EGFRチロシンキナーゼ阻害剤」という薬を使うことができます。EGFRチロシンキナーゼ阻害剤としては、現在、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブの3種類の治療薬が発売されています。ALK融合遺伝子が認められた場合は「ALKチロシンキナーゼ阻害剤(ALK阻害剤)」という薬を使うことができます。ALK阻害剤としては、現在、クリゾチニブ、アレクチニブの2種類の治療薬を使用することができます。
EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子のいずれも認められなかった場合には、従来の抗がん剤による治療を行いますが、もうひとつ肺がんの治療に用いられている分子標的治療薬として、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)に対する抗体(遺伝子組換え型ヒト化IgGモノクローナル抗体)であるベバシズマブがあります。がんが増殖するにはがんに栄養分を取り込むための血管を造ること(血管新生)が必要であり、多くの悪性腫瘍においてこのVEGFが増加しています。ベバシズマブは、従来の抗がん剤と併用することにより、腫瘍の増殖に必要な血管新生を阻害し、抗がん剤の腫瘍への到達を改善することなどにより、がんを兵糧攻めにして治療効果を高めると考えられています。

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化学療法

化学療法とは抗がん剤による治療のことで、広い範囲のがん細胞を攻撃する治療法です(全身療法)。非小細胞肺がんでは病期に応じて手術や放射線治療と組み合わせて、あるいは単独で抗がん剤治療を行います。小細胞肺がんは診断された時点で転移がみられることが多い一方で、非小細胞肺がんに比べて抗がん剤治療の効果が高いため、抗がん剤による治療が中心となります。

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化学療法の副作用

一般的な抗がん剤は、細胞が分裂・増殖する過程に働きかけて、細胞の増殖を抑えます。がん細胞は活発に分裂・増殖している細胞なので、抗がん剤の効果が期待されます。しかし、消化管の細胞や、髪の毛を造る細胞、血液を造る細胞なども活発に分裂・増殖しているため、影響を受けやすく、様々な副作用があらわれます。使用する薬によって副作用は様々であり、副作用の程度も個人差が大きく、副作用が非常に強くあらわれる場合とほとんど出現しない場合があります。副作用が強く現れたからといって治療効果はかならずしも良好であるわけではなく、一般的には副作用の強さと治療効果は無関係です。副作用による症状ができるだけ軽くなるように色々な薬が開発されていますので、我慢せず早めに医療スタッフに連絡することが肝要です。
副作用にはほとんどの抗がん剤に認められる共通の副作用と、特定の系統の薬にのみ認められる特異的な副作用とがあります。共通の副作用としては消化器症状(吐き気、嘔吐、食欲不振など)が第1にあげられます。

消化器症状

点滴治療中から出現する早期の悪心・嘔吐と点滴の翌日以降に出現し5~10日間持続する遅延性の悪心・嘔吐とがあります。近年開発されたセロトニン受容体拮抗型制吐剤(5-HT3受容体阻害薬)と呼ばれる吐き気止めの薬はこの早期の悪心・嘔吐にきわめて有効です。遅延性の嘔吐にはニューロキニン1(NK1)受容体阻害薬と呼ばれる吐き気止めの薬が開発されており、中等度以上の消化器症状を引き起こす恐れのある化学療法を行う場合に使用されています。その他、ステロイド剤(副腎皮質ホルモン剤)や精神安定剤などもある程度有効です。

骨髄抑制

共通の副作用としてもう1つ重要なものは骨髄抑制です。
血液中の赤血球、白血球、血小板はいずれも骨の中の骨髄というところでつくられますが、この造血機能が一時的に障害されます。白血球が減少するといろいろな感染症(敗血症、肺炎、腎盂腎炎など)にかかりやすい状態になります。一般的には抗がん剤の投与後、7~10日目ぐらいから白血球は減少します。感染症にかかると多くの場合には発熱、全身倦怠等の症状が現れます。白血球が減少した場合には、G-CSFという白血球を増やす注射剤を皮下注射して白血球の造血を刺激して対処します。G-CSF製剤には白血球が減少してから毎日注射するタイプの製剤と抗がん剤投与の翌日以降に予防的に1回だけ注射する徐放製剤の2種類があります。感染症が実際に起こってしまった場合には抗生物質等の点滴で感染症をコントロールします。貧血に対しては重症で息切れのあるような場合には赤血球輸血を行います。血小板減少に対しては出血傾向をきたすほど程度の強い場合には血小板輸血をおこなって対処します。

脱毛

生命には直接影響が及びませんが、脱毛も患者さんにとってつらい副作用のひとつです。
抗がん剤はがん細胞にダメージを与えますが、正常な細胞、特に細胞分裂が活発な細胞もダメージを受けてしまいます。髪の毛を造る細胞も細胞分裂が活発なためダメージを受けやすく、そのため抗がん剤による治療を行うと脱毛が起こります。脱毛は抗がん剤による治療の開始から2~3週目に起こりますが、ほとんどの場合、治療終了後3~6ヵ月で再び毛が生えてきます。抗がん剤を始める前に、前もって髪を短くしたり、自分にあったカツラや帽子、スカーフなどを準備しておくと、イメージの変化や心理的なショックを和らげることができ、これまで通りの生活を維持しやすくなるでしょう。

Fig. 9 化学療法による主な副作用とその発現時期
Fig. 9 化学療法による主な副作用とその発現時期