hd_cancerUrinary06.jpg

前立腺癌の基礎知識

前立腺とは?

前立腺は男性にのみ存在する臓器で膀胱の出口にあり、尿道をぐるりと取り巻いているクルミ大の器官です。前立腺から分泌される前立腺液と精のうが分泌する精のう液とが混ざり合って精液となり、精子を保護しています。

前立腺がんの特徴

前立腺がんは、前立腺の細胞が正常な細胞増殖機能を失い、無秩序に自己増殖することにより発生します。前立腺がんは一般に成長、増殖するのが遅く、高齢者に多く発生します。
早期前立腺がんは手術や放射線治療で治癒することも可能です。また、比較的進行がゆっくりしているという特徴があります。

前立腺癌の症状

前立腺がんは初期には自覚症状が少ないことが多いですが、前立腺肥大症同様の尿が出にくい、尿の切れが悪い、残尿感がある、夜間の排尿回数が多い、我慢出来ずに尿が漏れることがあるなどがみられる場合があります。上記のような排尿症状に加えて、血尿や骨への転移による腰痛などがみられることがあります。
しかし、最近では前立腺がんを早期発見するための血液検査で腫瘍マーカーであるPSA(ピーエスエー)の普及により早期に発見される前立腺癌が増えています。

PSAとは

前立腺特異抗原(PSA)は、前立腺で作られるタンパク質で酵素の一種ですが詳しい働きはわかっていません。前立腺がんができると、PSAが血液中に増えてきます。前立腺肥大症や前立腺炎でもPSAが高くなることがありますが、その値が高いほど前立腺がんの疑いが強くなります。

岡山医療センターにおける前立腺癌患者数(新規)の推移

2008年以降では年間80-100人程度の新規前立腺癌患者様を診察させていただいております。今後も国内の前立腺癌患者数は増加していくものと予想されています。

前立腺の悪性新生物
前立腺の悪性新生物―年齢別分布

前立腺癌の検査

診後は排尿に関する症状を含めた問診、診察が行われます。尿検査、PSA検査、肛門から指を挿入して前立腺のはれの状態を調べる直腸診や、腹部より前立腺の状態を調べる経腹的前立腺超音波検査、前立腺MRIなどが行われます。
これらの検査にて前立腺癌を疑う異常を認めた場合には、年齢も考慮しながら最終的に前立腺癌を確定診断するための前立腺針生検を行います。
前立腺生検では、超波による画像で前立腺の状態をみながら、細い針で前立腺を刺し、組織を採取する検査です。初回の生検では、通常12カ所からの組織採取を行います。
当院では前立腺針生検は入院にて施行しております。

前立腺針生検

前立腺癌の病期

一般的に癌の進行の程度を表す方法として病期(ステージ)という言葉を用います。
病期分類は「T(癌の広がり:がんが前立腺の中にとどまっているか、周囲の組織や臓器にまで及んでいるかどうか)」「N(リンパ節転移:前立腺の近くにあり、前立腺からのリンパ液が流れているリンパ節<所属リンパ節>やその他のリンパ節へ転移しているか)」「M(遠隔転移:他の臓器へ転移しているか)」という3点を評価して判定します。

前立腺がんの病期分類

T1 直腸診でも画像検査でもがんは明らかにならず、偶然に発見された場合
  T1a 前立腺肥大症などの手術で切り取った組織の5%以下にがんが発見される
  T1b 前立腺肥大症などの手術で切り取った組織の5%を超えた部分にがんが発見される
  T1c 前立腺特異抗原(PSA)の上昇のため、針生検によってがんが確認される
T2 前立腺の中にとどまっているがん
  T2a 左右どちらかの1/2までにがんがとどまっている
  T2b 左右どちらかだけに1/2を超えるがんがある
  T2c 左右の両方にがんがある
T3 前立腺をおおう膜(被膜)を越えてがんが広がっている
  T3a 被膜の外にがんが広がっている(片方または左右両方、顕微鏡的な膀胱への浸潤)
  T3b 精のうにまでがんが及んでいる
T4 前立腺に隣接する組織(膀胱、直腸、骨盤壁など)にがんが及んでいる
N0 所属リンパ節への転移はない
N1 所属リンパ節への転移がある
M0 遠隔転移はない
M1 遠隔転移がある

日本泌尿器学会・日本病理学会・日本医学放射線学会編
「前立腺癌取扱い規約 2010年12月(第4版)」(金原出版)より作成

岡山医療センターにおける前立腺癌の病期別頻度

StageⅠ:T1N0M0、StageⅡ:T2N0M0、StageⅢ:T3N0M0
StageⅣ:T4 or N1 or M1 いずれかを満たすもの
また前立腺癌は病期をABCDで評価することが多いです。
病期A=StageⅠ(T1a,T1b)、病期B=StageⅠ(T1c)+StageⅡ
病期C=StageⅢ、病期D=StageⅣ となります。

2008-2011前立腺がんの病期分類
2012-2013前立腺がんの病期分類

前立腺癌の治療

1,PSA監視療法

前立腺生検の結果、比較的おとなしいがんがごく少量のみ認められ、治療を開始しなくても、余命にに影響がないと判断される場合に選択される方法です。特に高齢者の場合には、なるべく体への負担の少ない治療法を選択していくことが大切になるため、PSAの数値などをみながら経過観察をするPSA監視療法は治療法の選択肢の1つとして重要視されています。具体的にはグリーソンスコアが6以下で、PSAが10ng/mL以下、病期T1-T2までの低リスク群に対して、PSA値を3カ月から6カ月ごとに測定して、その上昇率を確認します。PSA値が倍になる時間(PSA倍加時間)が2年以上と評価される場合にはそのまま経過観察でよいと考えられています。
特に積極的な治療を行わないため、当然、治療による副作用はありませんが、がんと診断されていながら「特に何もしない」ことに対して、精神的な負担を感じる人もおり、そのような人にはこの方法は向いていません。
PSA監視療法とは「この先、前立腺がんに対する治療をまったく行わない」ということではありません。PSAの数値の確認や症状の変化、ときには再び針生検などを行い、その都度「経過観察を続けるのか」それとも「根治的治療あるいはホルモン療法などへの治療に切り替えるのか」について、判断していくものです。疑問がある場合は、納得がいくように担当医とよく話し合うことが大切です。

2,手術療法

手術では、前立腺と精のうを摘出し、その後、膀胱と尿道をつなぐ処置がなされます。一般的には前立腺の周囲のリンパ節も取り除かれます(リンパ節郭清)。がんが前立腺内にとどまった状態にあり、期待余命が10年以上であるとされる場合には、最も高い生存率が保障できる治療法であると認識されています。
手術の方法には、下腹部を切開して前立腺を摘出する方法(恥骨後式前立腺全摘除術)と、腹腔鏡とよばれる内視鏡下に切除する方法、腹腔鏡補助下に小さな切開創で行う開腹手術(ミニマム創手術、腹腔鏡補助下小切開手術)さらにはロボットを使用する方法があります。
当院ではミニマム創前立腺全摘除術を施行しております。
入院期間は約10日間程度です。手術件数、治療成績に関しても他の施設と比較して遜色ないものと考えています。

腹腔鏡補助下小切開手術について

体の負担が少ない手術として「小切開手術(正式名:腹腔鏡補助下小切開手術)」があります。 従来の開腹手術は約15~20cmの創、腹腔鏡手術は径1cm大の穴を3~5か所で行うのに対し、小切開手術は5~8cmの創1つで手術を行うものです。

  • 従来の開腹手術に比べますと、痛みが少なく回復は早く、感染症も少ないです。
  • 創の大きさ以外は従来の開腹手術と全<同様の手順、技術で行うのでこれまでの開腹手術の経験を生かした安全な手術が可能です。
  • 創の大きさ以外は従来の開腹手術と全<同様の手順、技術で行うのでこれまでの開腹手術の経験を生かした安全な手術が可能です。
  • 腹腔鏡手術では使い捨ての高価な道具や、二酸化炭素でおなかをふくらませる必要がありますが、小切開手術ではどちらも必要ありません。
  • 肉眼(立体視、広い視野)と内視鏡モニター(拡大視)の両方で患部を見ることができるのも大きなメリットの一つです。
  • 小切開手術を希望されない場合は、従来の大きく切開する方法でももちろん可能です。

腹腔鏡による手術は開腹手術に比べて出血量は少ないものの、経験が浅い医師が執刀する場合は、手術時間が長い、前立腺尖部やそのまわりで切除断端陽性率(手術で切り取った組織の端[切断面]に確認できるがん細胞の割合)が高い、尿禁制(自分の意志で、適切な場所と場面で排尿できる状態)の回復が遅い場合があるといわれています。2000年に、皮膚に小さな孔(あな)を開け、精密な鉗子を持つ操作用手術ロボットを遠隔操作して行う、ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術が登場しました。開腹手術と同じくらいの経験が蓄積されてきています。ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術は、開腹手術と同等の制がん効果(がん細胞の増殖抑制効果)があり、手術侵襲(手術により生体を傷つけることによる影響)も開腹手術に比べ小さいことが知られています。2012年4月より保険適用になり、今後も手術法の選択肢の1つとして期待されています。

3,放射線治療

前立腺がんに対しては、体の外から放射線をあてる外照射療法と、体の中から放射線をあてる組織内照射療法(密封小線源療法:みっぷうしょうせんげんりょうほう)があります。外照射療法では一般的に1日1回、週5日で7~8週間の照射を行いますが、通常は通院による治療が可能です。経直腸的前立腺超音波検査で確認しながら、前立腺の中に小さな放射線を出す物質(線源)を挿入することで行う組織内照射療法は、外照射療法と組み合わせて行われることもあります。組織内照射療法には、線源を一時的に前立腺の中に入れる方法と、永久的に埋め込んでおく方法があります。
がんが骨へ転移したことで起こる痛みの治療や骨折予防のために放射線治療を行う場合は、場所や痛みの程度などによって照射の方法が異なります。
放射線治療には、急性期の副作用がいくつかありますが、5年、10年と時間が経過してからあらわれる副作用(晩期合併症)もあります。

1)外照射療法

転移のない前立腺がんに対して、体の外から、患部である前立腺に放射線を照射します。前立腺がんに対する放射線治療では、照射された放射線の総量が多くなればなるほど、その効果が高くなることが知られています。現在では治療範囲をコンピューターで前立腺の形に合わせることで、周囲の正常組織(直腸や膀胱)にあたる量をなるべく減らす三次元原体照射(3D-CRT)、または放射線に強弱をつけることでがんの形に合わせて治療を行い、正常組織への照射を減らす強度変調放射線治療(IMRT)がよく用いられます。このような方法の導入で、従来の放射線治療と比べ、より多くの放射線をがんに照射できるようになっています。外照射療法では一般的に、1日1回、週5回で7~8週間前後を要します。放射線治療は手術療法後に再発した場合にも使用されます。

2)組織内照射療法(密封小線源療法)

組織内照射療法は、前立腺内にとどまった前立腺がんの中でも、悪性度の低いがんに対する適応が推奨されています。具体的には、PSA値が10ng/mL以下で、かつ、グリーソンスコアが6以下の低リスク群が単独治療の対象とされています。この場合には手術(外科治療)と同等の効果が得られるとされています。それ以外の病態に対しては、組織内照射療法に外照射療法を組み合わせて治療することが勧められています。高リスク群では、組織内照射療法の単独治療は勧められません。
前立腺肥大症に対して、内視鏡を使用した前立腺を削り取る手術(経尿道的前立腺除去術)を受けた方では、放射線を出す線源が前立腺全体に埋め込めなくなってしまうため、この治療を行うことはできません。また、前立腺が大きすぎる場合は、その一部が恥骨の後ろに隠れてしまうため、線源を埋め込むことができない場合があります。この場合は、治療前に内分泌療法(ホルモン療法)を行い、前立腺を小さくすることがあります。
組織内照射療法は、小さな粒状の容器に放射線を出す物質を密封した線源を、前立腺へ埋め込む治療法です。永久的に埋め込む方法として代表的なものには、ヨウ素125を使った永久挿入密封小線源療法(LDR:low dose rate)があります。また、一時的な埋め込みによる照射を行う方法には、イリジウム192を使った高線量率組織内照射(HDR:high dose rate)があります。
永久挿入密封小線源療法は、麻酔のもと、肛門から器具を挿入し、超音波で確認しながら行います。あらかじめ計画された場所に、専用の機械を使用して会陰(陰のうと肛門の間)から、前立腺に線源を埋め込みます。半日で治療が終了し、前立腺に高濃度の放射線を照射することが可能であり、外照射療法と比較して副作用も軽度です。ただし、線源が尿中に排せつされる可能性があるため、手術後、最低一晩は入院が必要です。埋め込まれた放射性物質は、半年程度で効力を失うため、取り出す必要はありません。手術後1週間程度は、自転車やオートバイなど、会陰部に力がかかることは避けましょう。また、手術後1週間は飲酒を避けた方がよいでしょう。その他の制限はありません。体の中に放射線が残っていますが、周囲の人に対する影響に関しては問題ありません。これらの点に関しては、退院時に担当医の先生から指導があります。もし、尿や精液中に線源が出てきたことに気付いたときには、その線源をスプーンなどで拾い、退院時に交付される容器に入れて次回の外来受診時に持っていくようにしましょう。
高線量率組織内照射は、一時的に前立腺に管状の針を刺し込み、その針に線源を通して放射線の照射を行います。施設によって異なりますが、針を一晩そのまま置いておくことが多いようです。その間はベッド上で安静となります。
わが国において、永久挿入密封小線源療法は2003年9月から開始されました。この治療では、手術の場合と違い、正常な前立腺細胞が残っているため、PSAの値が手術後と比べて非常にゆっくりと低下します。そのため、再発の判定が難しいときがあります。再発した場合には、総合的な判断から、治療を行うこととされており、ホルモン療法、救済前立腺全摘除術、組織内照射療法(LDR、HDR)、凍結療法などが行われています。

4,内分泌療法(ホルモン療法)

前立腺がんは、精巣や副腎から分泌されるアンドロゲン(男性ホルモン)の刺激で病気が進行するという性質があります。したがって、アンドロゲンの分泌(ぶんぴ)や働きを妨げれば、前立腺がんの勢いを抑えることができます。
これを利用したのが内分泌療法(ホルモン療法)です。アンドロゲンの分泌や作用を妨げる薬を投与します。
内分泌療法(ホルモン療法)は主に転移のある前立腺がんに対して行われます。転移したがん細胞も、もともとの前立腺がんの性質をもっているため、内分泌療法(ホルモン療法)が効力を発揮します。また、転移のない前立腺がんで、年齢、合併症などのために手術や放射線治療を行うことが難しい患者さんに対しても内分泌療法(ホルモン療法)が行われます。さらに、放射線治療の前あるいは後に短期間の内分泌療法(ホルモン療法)が併用されることもあります。
方法としては精巣を手術的に除去することはほとんどせずに、LH-RH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)アゴニストとよばれる薬が使用されます。LH-RHアゴニストは精巣に働き、アンドロゲンの一種であるテストステロンの産生を低下させます。注射剤の場合は、1カ月あるいは3カ月に一度注射することで精巣からのテストステロンの分泌を抑えます。また、アンドロゲンががんに作用しないように働く、抗アンドロゲン剤という飲み薬を服用することもあります。抗アンドロゲン剤は副腎から分泌されるアンドロゲンの働きも遮断します。現在、内分泌療法(ホルモン療法)の初期段階では注射剤あるいは飲み薬が一般的に併用されたり、病態によっては単独で使用されたりすることがあります。
内分泌療法(ホルモン療法)の問題点は、長く治療を続けていると、反応が弱くなり、落ち着いていた病状がぶり返す点です。この状態を「再燃」といいます。再燃状態となると女性ホルモン剤や副腎皮質ホルモン剤などが使用されますが、これも、使用当初は効果がみられても、次第に弱くなります(去勢抵抗性)。そのため、内分泌療法(ホルモン療法)は前立腺がんに対して有効な治療法ですが、この治療のみで完治することは困難であると考えられています。
近年、アンドロゲン受容体を阻害するエンザルタミド(商品名:イクスタンジ)や、アンドロゲン合成を阻害するアビラテロン(商品名:ザイティガ)などをはじめとする新規ホルモン療法薬が次々と開発され、ホルモン療法の治療成績がよくなることが期待されています。例えば、従来のLH-RHアゴニストでは、一時的なテストステロンの上昇がみられるため、尿路閉鎖、転移巣に由来する骨痛、脊髄(せきずい)圧迫などが心配されています。これに対してテストステロンの上昇を伴わないLH-RHアンタゴニストが承認され、使用可能となっています。また抗男性ホルモン剤も新薬がいくつか登場しており、海外では承認されたものもあります。今後わが国でも使用が期待されます。

5,化学療法(抗がん剤治療)

内分泌療法(ホルモン療法)が有効でない症例や、内分泌療法(ホルモン療法)の効果がなくなったときに行う治療です。現在では、ドセタキセルによる化学療法が標準化されています。
また、2014年9月に、カバジタキセル(商品名:ジェブタナ)という新しい抗がん剤が発売となりました。ドセタキセルの有効性が認められない場合でも、カバジタキセルを使用することにより、生存期間の延長が期待できます。

当院での前立腺癌の治療成績

全症例
病期(ステージ)別